
令和5年度末の年金財政はプラス
3月27日、社会保障審議会が令和5年度の公的年金財政状況報告を公表しました。令和5年度末の公的年金積立金残高(現役世代が納めた保険料のうち、未給付だった分を将来の年金原資として積み立てたもの)は304兆円で、前年度末より53.5兆円の増収でした。
同報告によると、令和5年度の年金財政の主な増収要因は、①厚生年金被保険者の増加、②GPIFの運用成績の好調、③65歳の平均余命実数が推計値を下回ったこと、④マクロ経済スライドの発動、の4つでしたが、今回は①について専門家の見地から解説してみたいと思います。
国民年金と厚生年金の大きな違い
令和5年度末の公的年金被保険者数は6,745万人で、その内訳は国民年金被保険者2,073万人、厚生年金被保険者4,672万人です。そして前年度末からの1年間で、国民年金被保険者が52万人減少した一方で、厚生年金被保険者は54万人増加しました。
一見すると公的年金の被保険者のうち、52万人が国民年金から厚生年金に種別変更しただけで、公的年金全体では被保険者数の純増はわずか2万人では?と感じるかもしれません。しかし保険料の徴収に関する両年金の違いを知ることで、年金財政増収の理由が見えてきます。
保険料減免や未納は国民年金特有
国民年金被保険者2,073万人の内訳をみると、596万人が保険料の減免や納付猶予の適用者です。また686万人は保険料の納付義務のない第三号被保険者、そして79万人は未納者となっており、満額の保険料を納付しているのはわずか712万人(34.3%)に過ぎません。
一方の厚生年金には、産前産後休業や育児休業中の被保険者を除き、保険料の減免制度がありません。厚生年金の保険料は労使で折半して負担しますが、保険料の納付義務は事業主が負い、滞納に対して督促が行われるため、理論上は保険料の未納者も生じない仕組みです。
令和5年度の国民年金の加入・保険料納付状況(厚生労働省年金局)
両年金ではこんなに保険料が違う
国民年金保険料は被保険者の所得の多寡に関わらず一律17,510円(令和7年4月~)です。一方で厚生年金保険料は被保険者の収入に応じて32等級にランク分けされています。これを標準報酬月額といい、標準報酬月額に18.3%を乗じて得た額が厚生年金保険料になります。
なお直近の標準報酬月額の平均額は321,000円ですので、保険料率の18.3%を乗じた58,743円が厚生年金保険料の平均といえます。さらに厚生年金保険料は賞与からも徴収しますので、厚生年金被保険者数の増加は、納付率と納付額の双方において増収効果が大きいのです。
将来の年金財政は少子化対策次第
令和5年度の公的年金財政状況報告は、その総括において今回の年金財政収支はプラスだったものの、少子化に歯止めがかからず実質賃金も伸びていない現状が続けば、いずれ年金財政に大きなマイナスの影響を与えるだろうと警鐘を鳴らしています。
医療の2025年問題において日本の高齢化は今年がピークであり、以後は介護需要の曲がり角を経て、多死社会へと移行します。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、100年後の日本人口は低位推計(最も悲観的な推計)で3,400万人まで減少するとのことです。
ちなみに3,400万人は明治初期の人口とほぼ同水準です。今の日本の人口が1億2千5百万人弱ですので、わずか150年で4倍弱に膨れ上がった計算です。そして次の100年で元の水準に回帰するようですが、実は私たちは日本の有史以来、極めて特異な時代を生きているのです。
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