
事件の発端は社長の個人的趣味
札幌市西区の土建会社で、社長が社員に暴力を振るう動画がローカルニュースで報道され、大きな波紋を呼んでいます。発端は、社長が個人的な趣味である錦鯉の世話を若い男性従業員にさせていた際、社長夫人への態度が気に入らなかったという一方的な理由から、激昂し、殴る蹴るの暴行に及んだことでした。
この事件が特に注目を集めたのは、当該企業がSDGsや健康経営優良法人といったCSR関連の認証を多数取得していた事実です。世間に向けた表向きのクリーンなイメージとは裏腹に、従業員を恐怖で支配する職場の実態との落差は、多くの視聴者に衝撃を与えました。
「指から切るか腕からいくか」ミスをすると社長が日本刀を…絶対服従の社内LINE 札幌の建設会社の異常な実態(HTB NEWS)
「従業員は家族」を都合よく曲解するな
北海道では、残念ながらパワハラが横行している企業は決して珍しくありません。そのような組織の経営者には、いったん従業員を採用すれば、その後は煮て喰おうが焼いて喰おうがこっちの勝手だと考える風潮が見られます。本件のように、業務とは無関係な個人的趣味のために、従業員をまるで家事使用人のように扱おうとするのは、その典型と言えるでしょう。
この背景には、日本企業に根強く残る「従業員は家族」という倫理観があると私は考えます。「従業員を家族のように大切にする」という本来の意味合いが歪められ、「家族だから何をしても許される」などと勘違いしている経営者が少なくないのではないでしょうか?
従業員も大切なステークホルダー
しかし、昨今は上場企業を中心に、従業員もまた大切なステークホルダー(利害関係者)であるという認識が広まりつつあります。これまでステークホルダーといえば、消費者、出資者、債権者、取引先、主務官庁などが主な対象でしたが、人的資本経営に関する情報開示が義務化される流れの中で、その認識は大きく変化しました。
したがって、現代の経営者が重視すべきは、ヒト・モノ・カネという経営リソースをいかに最適に運用し、経営成果を上げるかという点です。とりわけ「ヒト」には感情があり、個々の事情が異なるため、マネジメントにおいてモノやカネ以上に細やかな配慮が求められ、それゆえ経営者は従業員満足度の向上に取り組むのです(決して恩恵的に行うものではありません)。
ステークホルダーへの背信行為
建設業は、以前から「3K(きつい・汚い・危険)」の代表的な業種とされ、2024年問題も相まって、深刻な人材不足への対応が喫緊の課題となっています。行政や業界団体は、有能な人材を確保すべく職場環境の改善やイメージアップに努めてきましたが、今回の某社長の暴力と欺瞞が世間に広く知られたことで、業界全体のイメージダウンは避けられないでしょう。
さらに、この会社の受注の多くが公共工事に依存している現状を鑑みると、今回の事件による入札指名停止は必至であり、最悪の場合、廃業という事態も想定されます。それは、従業員を路頭に迷わせ、その家族の人生設計を大きく狂わせることに他なりません。この社長は、自身の浅はかさと経営スキルの稚拙さを、深く反省しなければなりません。
CSR(企業の社会的責任)認証の課題
この会社に限らず、企業イメージの向上だけを目的に、実質が伴わない「なんちゃってSDGs」のような認証を取得している企業は少なくありません(これらは「SDGsウォッシュ」などと批判されています)。健康経営優良法人認定においても、概ね自己申告にもとづき審査されるために職場の実情を正しく反映しておらず、求職者の判断を誤らせるという問題があります。
米国の政権交代によってESG投資に対する見方が変化したという意見もありますが、依然としてCSR認証を取得することによるイメージ戦略上のメリットは大きいと言えます。であるならば、ISOサーベイランス審査のように、受益に応じたより高額なコスト負担も必要でしょう。廉価で取得できるために、実態の伴わない「似非ホワイト企業」が出現するのです。
前時代的な雇用慣行からの脱却
依然として多くの企業でハラスメントが蔓延し、従業員が泣き寝入りするケースが後を絶ちません。批判を恐れずに申し上げれば、「従業員は家族」「定年まで勤め上げる」といった、時代錯誤な雇用慣行や就労観こそがパワハラ問題の根源にあるのではないかと思います。
雇用の流動化が叫ばれる一方で、未だに転職回数をチェックする三流リクルーターが多いのも残念なことです。経営者は従業員も大切なステークホルダーであることを再認識し、従業員もまた、有事に備えて自身のエンプロイアビリティ(雇用される能力)を研鑽すべきです。
ブラック企業からホワイト企業への人材移動が活発になると、結果的にブラック企業は人材の枯渇によって市場から淘汰され、それ以外の企業はホワイト企業を目指して人事制度の質向上に取り組むようになるでしょうし、そうなって欲しいと願っています。
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