こうみえても資格マニアです

キャリアカウンセラー(キャリアコンサルタント?)が人気の資格を一刀両断!といった趣の記事だが、これまでたくさんの資格を取得して、実務で活用してきた筆者にはとても違和感のある内容だった。ちなみに筆者がこれまでに取得した主な資格は次のとおり。
- 社会保険労務士
- 日商販売士1級
- 建設業経理士1級
- 日商簿記2級
- 東商ビジネス実務法務2級
- 第一種衛生管理者
- FP技能士2級(個人・中小事業主1)
- 日商DCプランナー2級
- 初級システムアドミニストレータ
- メディカルクラーク(医科)
- 英検2級
- TOEICスコア785点
これらの資格を主に建設会社と医療機関の管理部門(経理、総務、人事)で活用し、社会保険労務士資格をもとに独立開業して現在に至る。筆者の場合、はじめに実務ありきで、仕事の質を高め、職域を広げ、キャリアアップするために適宜これらの資格を取得してきた。
人事業界で無双するなら社労士
勤務社労士をご存知ない?
ではさっそく難関資格の社会保険労務士から。社労士は労務と社会保険にかかわる事務手続きの専門家である。件の記事では「法人営業ができなければ取得する意味ナシ」と一蹴していたが、それは開業社労士に限った話であって、勤務社労士の存在がスッポリと抜け落ちている。
社労士の試験内容は法令および一般常識の10科目で、これらのほとんどが手続法である。実務に直結した試験内容となっていることから、企業の人事部門では即戦力となる資格である。また社労士の知識は人事コンサルタントにとっても必要不可欠なものである。
人事やるなら社労士は必須
簿記の知識が無ければ入門すらできない財務会計分野と異なり、人事コンサルティングは人材紹介やコーチングなど様々な分野から雑多な人が流入してくるため、コンサルタントの質が玉石混交だ。自称人事コンサルが人事制度をメチャクチャにしてしまうことも少なくない。
なお「社労士=人事コンサル」ではない点に注意が必要だ。人事制度は①人事戦略、②労務管理、③人材採用、④人材育成、⑤報酬・処遇制度などから成り立っているが、社労士が得意とするのは②労務管理と⑤報酬・処遇制度であり、①③④の分野には疎いのが一般的である。
病院収益を一手に担う医療事務
医療事務は雑用係じゃない
続いて医療事務。「電子カルテの導入によって医療事務の時給据え置き」などと書かれている…。恐らく「電子カルテが導入されてに医療事務スタッフが余り気味だ…」と言いたいのだろう。しかし合理化されたのはカルテ運搬の一般事務員である。
そもそも電子カルテはオーダリングシステムやレセプトコンピュータと連携して、診察→検査→処置→調剤→会計→レセプト請求のプロセスにおいて診療情報をリアルタイムで共有するシステムであり、医療事務の仕事にとって代わるものではない。
医師の事務サポートに必須
医師の過重労働解消のために、電子カルテの入力を医師に代わって行う「医師事務作業補助者」が注目されている。医師事務作業補助者の選任に医療事務の資格は必須ではないが、入力した電子カルテをもとに医事課がレセプト請求するため、医療事務の知識が不可欠となる。
医師事務作業補助者を配置すると医師は本来業務に専念でき、さらに医師事務作業補助体制加算も算定できる。医師の働き方改革を後押しする有力な施策にもなりうるため、電子カルテの導入=医療事務資格者のニーズが減る…などと断言するのはあまりに浅慮すぎる。
会社経営の仕組みがわかるFP
FP活用は金融業界だけじゃない
ついでにファイナンシャル・プランナー(FP技能士)にも触れておきたい。FP資格は金融系の仕事以外にも、一般企業の経理部門や人事部門で大いに活用できる資格であり、FP3級レベルなら管理部門以外の人も、自身の資産形成を行う上で活用できる知識を学ぶことができる。
経理の資格といえば簿記検定と相場が決まっている。一方で経理部門の業務は財務分野と会計分野の2つに大別されるが、簿記検定が対応しているのは会計分野のみである。そこで財務分野の資金調達や資産運用、税務申告などの知識を得るためにFP資格が有用なのだ。
経理や総務なら技能士で十分だ
FP資格は人事部でも役に立つ。たとえば年末調整、財形貯蓄、企業型DCの投資教育などにFPの知識が必須となる。なおFP資格には日本FP協会が行うAFPやCFP資格と、国家資格のFP技能士検定があるが、金融業界や保険業界で働くのでなければFP技能士で十分だ。
付け加えるとAFPやCFPは登録料や更新料がかかるが、FP技能士は受験費用以外はかからないのでコスパが良い。ただし経理部や人事部など管理畑の人が、FP技能士資格を履歴書に書いてアピールしようとするのであれば、最低でも2級は欲しいところ…。
MOSと日商PC検定は使えるか?
オフィスソフトは使えて当たり前
最後に件の記事イチオシのMOSと日商PC検定について。自己研鑽のためにこれらの資格に挑戦する分には構わないが、いまどきオフィスソフトの操作など、役員であってもできて当たり前のスキルである(好業績の会社の幹部ほどPCを自在に使いこなしている感がある)。
最近は生成AIの進歩によってパソコン入力や文字起こしといった単純作業は無くなりつつあり、BI(Business Intelligence)の使い勝手も良くなってきたので、難解な関数を連結して資料を作る必要もなくなった。もはやMOSや日商PC検定では専門スキルなどとは言えない。
IT化が遅れた職場に転職すると…
よく考えてみて欲しいが、今の時代にMOSや日商PC検定の有資格者を必要とするような職場は、ロートル社員の掃き溜めであることが多い。資格を武器に入社したところで、こういった人達の”パソコン介助”に忙殺されて、クリエイティブな実務経験など望むべくもない。
経営者もITに疎いためDXやIT投資に後ろ向きだ。事務員がボロいデスクトップで悪戦苦闘している傍らで、年配の役員があくびをしながら大画面のマックでソリティアに興じている光景などよくある。こんな職場に転職してしまうと、かえってITスキルを磨く機会を失う。
キャリアコンサルタントの将来性
最後にキャリアコンサルタント資格について、筆者が一刀両断してみたい。類似資格に産業カウンセラーがあるが、これはコーチングによってクライアントのキャリア形成を支援する資格であり、キャリアコンサルタントは自身の知見にもとづきキャリア形成を指導する資格だ。
ここ数年、教育訓練給付金の受給資格に、制度利用に際してキャリアコンサルタントを受け、キャリアコンサルタントが作成したジョブ・カードを申請書に添付することが義務付けられるなど、政府は雇用流動化を促進するために、キャリアコンサルタント制度を後押ししている。
ただしキャリアコンサルタントとして食べてゆくには、産業と職業に関する広く深い知見と洞察が必要だ。教科書的なキャリアコンサルティングは、経営者にとっても従業員にとってもかえって混乱を招き、人事制度やキャリア設計の方向性をミスリードしてしまう恐れがある。
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本記事のように医療事務を病院の事務員(雑用係)と誤解している人は少なくない。しかし医療事務の最も大事な業務は医療スタッフの臨床行為を診療報酬点数表に置換して収益化することである。
医療機関は営利性より公益性を追求するものである。一方で持続的に地域医療を展開してゆくには適正利益の確保が不可欠でもある。したがって病院の存続は、医療事務の質の良し悪しにかかっているといっても過言ではない。
ここ10年間で病院のレセプト請求は原則としてDPC制度で行うことになった。青天井だった出来高算定から疾患ごとに診療報酬の上限が決められたDPC制度では、病院が利益を確保するためには内部原価管理を行わねばならない。
そこで異業種から経営管理に秀でた人材をスカウトする病院が増えたが、異業種参入組にとって一番苦労するのが収支分析。収益の見積もりにはレセプト請求の知識が必須だが、これが一筋縄ではゆかず多くの転職者が苦労する。

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- 個人=個人資産相談業務、中小事業主=中小事業主資産相談業務のこと。前者は人事業務(年末調整等)に関連して、後者は経理業務(資金繰り、節税対策等)に関連して取得した。 ↩︎