はじめに
この企画は、スーパーマーケット業におけるカスハラ対策を全6回のシリーズで紹介するものです。記事は人事部出身の社労士である当事務所代表が執筆しており、代表はかつて大手スーパーの販売課長として、数多くのカスハラ行為に対処してきた経験を有しています。
第5回となる本記事では、これまでの「カスハラ行為からいかに自社の従業員を守るか?」という一連の内容から少し視点を変え、スーパーマーケット事業者がカスハラ行為の加害者となりうる具体的事例とそのリスクについて解説してまいります。
スーパーマーケット事業者によるカスハラ


バイングパワーの使い方を誤ると…
スーパーマーケットがチェーン展開する理由は、多店舗化によるスケールメリットの追求です。スケールメリットのひとつとして、各店舗の商品仕入れを本部が一括して行うことで、取引規模の大きさを背景に、メーカーや卸売業者に対し有利に商談できるというものがあります。
スケールメリットからもたらされる取引優位性を「バイングパワー」といいますが、このバイングパワーを傘に着て、取引先に対して高圧的な態度をとったり、不合理な要求をしたりすると、取引先に対するカスハラ行為どころか、違法行為として処罰されることがあります。
ここではこれらのうちスーパーマーケット業において特に起こりやすい事例について、本部側(商品部バイヤー)と店舗側(売場担当者)からそれぞれご紹介します。
メーカーや卸売業者に対するカスハラ
独占禁止法では、大規模小売業者の納入業者に対する優越的地位の濫用行為を規制するためのルール「大規模小売業告示」を定めています。該当する大規模小売業とは、東京都および政令指定都市は店舗面積3千㎡以上、その他市町村では1千㎡以上の店舗をいいます。
大規模小売業告示では、大型スーパーマーケットに対して次の行為を禁止しています。これらに該当すると、カスハラ行為どころか独占禁止法違反によって、スーパーマーケット事業者が厳しく処罰されることもあります。
- 不当な返品
- 不当な値引き
- 不当な委託販売取引
- 特売商品等の買い叩き
- PB商品等の受領拒否
- 押し付け販売1等
- 納入業者の従業員等の不当使用2等※2
- 不当な経済上の利益の収受3等※3
- 要求拒否の場合の不利益取り扱い
- 公正取引委員会への通報に対する不利益取り扱い
- 納入業者におせちやオードブル、クリスマスケーキの購入を強要すること ↩︎
- 新規開店や改装オープンセールの店頭作業を無償で手伝わせること ↩︎
- 商品部のバイヤー等が納入業者に対して接待などを要求すること ↩︎
納入業者(運送業)に対するカスハラ
こちらは店舗が納入業者に対して無理な納期や突発的な小口配送を強要した場合に、カスハラ行為に該当する事例です。例えば特売期間中に販売予測が外れ、売場に欠品が生じそうなときに、売場担当者が納入業者に「今すぐ○○を持ってこい!」と電話するケースがあります。
納入業者の多くは商品配送を運送業者に外注していますが、令和6年4月1日施行の改正労働基準法により運転手の年間の残業時間が960時間以内に、また「改善基準告示」では1日の拘束時間を13時間以内、運転時間を2日平均9時間/日以内、2週平均44時間/週以内とされました。
トラック運転手の改善基準告示が改正されています(厚生労働省)
さらに令和6年4月1日施行の新物流効率化法では、トラックドライバー不足による物流停滞リスクを回避すべく、荷主と物流事業者に対し、物流効率改善のために講ずべき措置として、次の3点を義務付けました(努力義務)。
- 積載効率の向上
- 共同輸配送や帰り荷の確保
- 適切なリードタイムの確保
- 発注量や納入量の適正化
- 荷待ち時間の短縮
- トラック予約システムの導入
- 混雑時間を回避した日時指定
- 荷役等時間の短縮
- パレタイズの導入
- タグ等取り付けによる検品効率化
- フォークリフトや荷役作業員の適切な配置
スーパーマーケット事業者が納入業者に対して法令に違反するような無理な配送を強要すると、カスハラ行為に該当します。荷主たるスーパーマーケット事業者も、運送業界の事情を認識しておくことで、意図せずカスハラ行為に及んでしまうリスクを回避できるでしょう。
正当クレームをカスハラ扱いしてしまうと…

スーパーマーケット業ではクレーム=宝の山
商売の世界には昔から「クレームは宝の山」という言葉があります。自社の製品やサービスに不満を抱いた購入者のうち、実際にメーカーや小売店にクレームを申し入れるのはごく一部に限られ、多くは黙って他社の製品やサービスに乗り換えるという統計データがあります。
つまりクレームを前向きに捉えるなら、クレームは自社の製品やサービスを改善するきっかけを与えてくれる貴重な情報源であるといえます。ここでスーパーマーケット事業者が懸念すべき点は、正当なクレームを安易にカスハラ行為として片付けてしまうことです。
耳の痛いクレームを謙虚に受け止め、社内で地道な改善活動を行っていくよりも、カスハラ(不幸な事故)として片付けてしまったほうがラクだと考える従業員はどこのお店でも一定数存在します。よって店長は正当クレームとカスハラ行為を適切に見極める責任があります。
クレームマネジメント体制構築の3ステップ
正当なクレームをカスハラ行為として安直に処理してしまわないためにも、組織的にクレームを収集し、分析する体制、すなわちクレームマネジメントの体制づくりが必要です。クレームマネジメントの体制構築は、カスハラ対応ポリシーと併行して行います。
一例をあげると、日本商工会議所の「販売士ハンドブック発展編」では、クレームマネジメント体制の構築を概ね次の3つのステップで解説しています。
- クレーム情報の収集
幅広いチャネル(電子メール、イントラネット、ホームページ等)から網羅的にクレーム情報を収集する体制を構築します。 - クレーム情報の集約
クレーム情報を加工・修正することなく、生の情報をそのままデータベース化し、経営陣に届ける仕組みを構築します。 - クレーム情報を経営に活かす
クレーム情報とクレーム情報に潜む問題点や改善課題を、経営陣直轄のクレームマネジメント委員会に集約し、新製品や新サービスの開発あるいは既存製品や既存サービスの改善に活用します。
まとめ
カスハラ対応とカスハラ防止はセットで対策
今回は見落とされがちな「スーパーマーケット側がカスハラ行為者になりうる」いくつかの事例をピックアップしてみました。
スーパーマーケット業といえばカスハラ行為の被害に遭いやすい業界という印象が強いですが、特に多店舗展開している事業者(チェーンストア)はカスハラ加害者になるリスクも十分認識すべきであり、カスハラ対応とカスハラ防止はセットで対策すべきです。
カスハラ行為と正当クレームの見極めは、限られた商圏でシェアを高めなければならないスーパーマーケット事業者にとって、自社の持続的成長と発展にも関わる重要な課題です。経営陣が旗振り役となって全社的にクレームマネジメントを推進していかなければなりません。
スーパー業のカスハラ対策はお任せください
当事務所の代表は人事部出身の社会保険労務士であり、企業における人事マネジメント実務に精通しています。冒頭でも申し上げたとおり、当事務所の代表は長らくスーパー業界で働いた経験があり、また日商1級販売士(札幌販売士協会所属)の有資格者でもあります。
カスハラ対策は、例えば介護、運送、宿泊など、業界ごとの特性や関係法令をよく理解した上で、労務コンプライアンスに留意しつつ進めていく必要があります。「人事のプロ」×「スーパー業界に精通」の当事務所なら、具体的で実効性のあるカスハラ対策のご提案が可能です。

流通業界に精通した社労士による実効性あるカスハラ対策


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