はじめに
カスハラ対策は、企業にとって重要な人材投資の一環です。しかし、経済産業省の「2024年企業活動基本調査(確報)」によると、国内産業において小売業の経常利益率はワースト3位という厳しい状況にあります。

さらに一般社団法人全国スーパーマーケット協会の「スーパーマーケット白書2025」では、特に中小のスーパーマーケット事業者において、原価高騰や物流の2024年問題に起因するコスト上昇がスーパーマーケット事業者の財務を圧迫していることが報告されています。
全6回にわたってお送りしてきた本シリーズの最終回では、このような厳しい経営環境の中でカスハラ対策を推進するために、スーパーマーケット事業者が活用できそうな公的助成金や支援制度の一例についてご紹介いたします。
カスハラ対策に向けた公的支援制度

カスハラ防止対策推進事業(東京都)
東京都では令和7年4月1日より、カスハラ対策に関するマニュアルを整備し、カスハラ防止のための実践的な取り組みを行っている都内の中小事業者に対して奨励金を支給しており、その概要については概ね次のとおりです。
奨励金の概要
- 支給額~1企業あたり40万円
- 対象者~業歴1年以上かつ従業員300人以下の東京都内の事業者
- 支給条件~カスハラ防止のための実践的取り組みを行っている事業者
必須要件(両方とも実施)
- カスハラマニュアル作成・周知
- カスハラ対応ポリシー策定・周知
選択要件(いずれかひとつを実施)
- 録音・録画環境の整備
- カスハラ対策AIシステムの導入
- 外部人材の活用(社会保険労務士)
カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金(東京都)
人材確保等支援助成金(厚生労働省)
直接的にカスハラ対策を対象とした助成金ではありませんが、カスハラ行為によって離職を余儀なくされる従業員が多い職場が、人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)を活用して、人事制度の見直しを通じた離職率の低下を図ることもできます。
本シリーズの第4回「人材の質向上を通じたカスハラ予防の具体的手法」でお話ししたように、カスハラ対策はあくまでも対症療法です。カスハラ行為を未然に防止するには、人材教育と人事評価を両輪として販売活動の質を高め、クレームを減らすのが最も有効な施策です。
助成金の対象となる雇用管理制度には5つのメニューが用意されており、そのひとつが人事評価制度の導入です。カスハラ対応ポリシーやカスハラ研修を人事評価制度に組み入れることで、悪質なカスハラ行為を抑制し、結果的に従業員の離職率低下が期待できるでしょう。
人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)
その他支援制度(北海道エリアの例)

専門家派遣事業との連携活用
北海道では、北海道中小企業総合支援センターが道内の中小企業の経営基盤強化と持続的発展をサポートしています。同センターは北海道の出資によって設立された公的機関で、専門家派遣事業や各種補助金事業などの中小企業支援サービスを展開しています。
道内の中小スーパーマーケット事業者の場合、カスハラ対策において専門家派遣事業を活用することで、公費によるサポートを受けられる場合があります。サポートは往訪またはオンラインにより、本シリーズでご紹介したカスハラ対策についてアドバイスを提供できます。
電子申請システムの積極活用
厚生労働省では行政事務の合理化推進の一環として、人材開発支援助成金をはじめとする雇用関係助成金の申請について、電子申請を推奨しています(すでに大企業では労働法令および社会保険・労働保険関連の届出について電子申請が義務化されています)。
2025年9月時点における全国の事業者の電子申請導入率は7割に達しており、電子申請が主流となっています。各都道府県労働局では地域のハローワークに電子申請アドバイザーを配置し、公費による電子申請導入支援を行っていますので、ぜひご活用ください。
都道府県社労士会の相談窓口

北海道では全国の自治体に先駆けて北海道カスハラ防止条例を制定・施行したことに合わせて、職場ハラスメントの専門家集団である北海道社会保険労務士会と連携し、ハラスメント・労働相談コールを開設しています。
全国各地においても、都道府県社労士会が主体となって職場ハラスメントの相談サービスを展開していると考えられます。特に事業主のカスハラ対策は令和8年10月から義務化される予定ですので、カスハラ行為が疑われる場合には、ぜひ確認されることをお勧めいたします。
まとめ

近江商人の「三方よし」と地域貢献
私が某大手スーパーに入社した時に最初に教わったのが、近江商人の「三方よし」の精神でした。これは商売の心構えを表現した言葉で、「商売を長く続けるには我欲を捨て、売り手良し、買い手良し、世間良しの三方良しを心がけよ」という商売人の普遍的な格言です。
大手チェーン各社は各地の店舗でCSR(企業の社会的責任)活動に取り組んでいますが、この根幹となる考え方は近江商人の三方よしの精神であり、地域社会から支持されないリテーラーは早晩市場から淘汰されるという危機感が活動の背景にあります。
事業の成長と発展はカスハラ対策次第
ところで、昨今のスーパーマーケット事業者は仕入価格や光熱費、人件費の高騰により経営コストが上昇しています。さらに物価高によって消費マインドは横ばいであり、人時生産性の向上こそが事業存続の鍵と言われているようです。
このような状況下において、カスハラ行為で従業員がメンタルヘルス不調を起こして休職したり、離職に追い込まれていては、人事生産性の向上など到底望むことはできません。日常業務すらままならない過酷な状況では、近江商人の三方よしの追求など絵空事でしょう。
スーパーマーケット業界が今後も成長と発展を遂げてゆくためには、従業員が安心して販売活動に専念できる職場環境を実現することが最優先事項であり、その中でも喫緊の課題ともいえるのがカスタマーハラスメント対策なのではないでしょうか?
全6回にわたってお届けしてきた本シリーズ。当事務所の代表にとってスーパーマーケット業界は成長と飛躍のきっかけを作ってくれた愛すべき古巣です。業界への恩返しと言うにはおこがましいですが、少しでもスーパー業界で頑張る皆様のお役に立てれば望外の喜びです。


流通業界に精通した社労士による実効性あるカスハラ対策


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