いいかげんな回答に正直少し困っています…

社労士の山口です。現在私は、日本最大の人事ポータルサイト「日本の人事部」で人事QAの回答者としてお仕事をさせて頂いております。最近ようやく相談にも慣れ、除々に回答のペースを上げているところですが、時々突拍子もない回答を見て、驚かされることがあります。
私自身もまだまだ半人前なので、他の回答者を批判できる立場ではありませんが、「それは都市伝説だろ?」と思われるような酷い回答も散見されることから、特に看過できない事例について、当事務所のブログにて回答の正誤やその根拠、誤答に至った理由などを解説します。
その第一回目は「協会けんぽの任意継続被保険者は被扶養者を追加できるか?」というお話です。元々組合健保の任意継続についての相談だったのですが、私が「協会けんぽなら可能ですが…」と前置きしたことに、他の回答者が異口同音に「できない!」と否定したのです。
任意継続被保険者は被扶養者を追加できない!?

結論から申し上げると、協会けんぽの任意継続被保険者は、任意継続被保険者となった後でも被扶養者を追加できます。その根拠(というほどでもありませんが…)は、協会けんぽのホームページに「任意継続被保険者が被扶養者を追加するとき」と書いてあるからです(笑)。
例えば任意継続中の夫婦が子を出産した場合に、赤ちゃんだけ国保に加入するというのは制度として不合理です。任意継続すると、在職中は労使折半だった保険料を全額負担しなければならないのに、世帯主として赤ちゃんの国保料まで上乗せするのか?という疑問も湧きます。
もう一点。任意継続する際に協会けんぽに提出する「任意継続被保険者 資格取得届」には被扶養者を記入する欄があります。しかしそれとは別に「任意継続被保険者 被扶養者異動届」があるのはなぜでしょう?「任意継続=被扶養者の追加不可」などとあまりにも浅慮ですね。
なぜ専門家がこんな初歩的なミスを犯したのか?

私の見解に対する反論のコメントには「そもそも任意継続は在職中の保険関係を継続するので、任意継続後の被扶養者追加など認められない。」などともっともらしいものもありました。しかしこれは法律の理解不足による、まさに都市伝説のような誤った考え方です。
なぜこんな突拍子もない解釈になるのか?というと「任意継続被保険者が傷病手当金や出産手当金を受給するには、離職前からこれらの手当を受給している(あるいは受給権を得ている)場合に限る…」という法理を、勝手に拡大解釈して被扶養者にあてはめているからです。
実は「任意継続被保険者は傷病手当金を受給できるか?」という論点は、社労士試験においてテッパンの頻出テーマです。ゆえに過去問の答練などで丸暗記した表面的な知識を、相談者に対するアドバイスとして、そのまま返してしまったのではないかと推察します。
試験に合格さえすれば…丸暗記派が陥る罠

「任意継続被保険者が傷病手当金(出産手当金)を受給するには、離職前から傷病手当金(出産手当金)を受給している(受給権を有する)こと」という社労士試験の論点は、実は「任意継続被保険者」と「資格喪失後の継続給付」の2つの法律を組み合わせたひっかけ問題です。
傷病手当金と出産手当金は休業者に対する生活保障です。しかし例えば私傷病によって傷病手当金を受給している者が、就業規則に定める休職期間を満了したことにより自然退職となった場合に、同時に傷病手当金を打ち切られてしまうと経済的に困窮してしまう恐れがあります。
そこで健康保険法では一定要件を満たす場合に、離職した者にも傷病手当金を在職中から通算して1年6ヶ月まで継続給付するという特例を設けており、これが資格喪失後の継続給付です。しかし丸暗記に頼った試験勉強では「継続給付」と「任意継続」を混同してしまうのです。
被保険者資格を起点に考えると理解しやすい

「資格喪失後の継続給付」と「任意継続被保険者」を混同しないためには、「継続」というキーワードに囚われず、「そもそも健康保険の被保険者は誰か?」という原点に立ち返って考えるとわかりやすいです。
健康保険の被保険者は「一般の被保険者」と「任意継続被保険者」の2種類です。任意継続被保険者も被保険者には違いありませんから、もし被扶養者の要件を満たす家族がいれば、当然に被扶養者に追加することができます。
一方の傷病手当金や出産手当金は休業中の生活保障です。したがって被保険者とはいえ、すでに離職した任意継続被保険者に対し、これらの給付を行うことは適切ではないので、任意継続被保険者であっても傷病手当金や出産手当金については給付の対象外なのです。
しかし任意継続被保険者だからといって、資格喪失後の継続給付を妨げる理由はありません。そこで離職前から傷病手当金や出産手当金を受給している場合には、資格喪失時の継続給付に準じて、保険給付が行われる(継続される)…というのが正しい理解です。
専門知識×実務経験こそホンモノのノウハウ

このように法令や制度の目的を深く理解せずに、ペーパー試験で丸暗記した薄っぺらい知識を専門家と称して振りかざすと、「任意継続被保険者になると被扶養者を新たに追加できない!」などというトンデモ回答に飛躍してゆきます。
ところでなぜ私だけが迷わず正答できたのかというと、冒頭で述べたように協会けんぽのホームページを確認したということもありますが、すでに当事務所のメンバーが、実際に「任意継続被保険者 被扶養者異動届」を、依頼を受けて協会けんぽに提出代行していたからです。
ともあれ今回の一件を通じ、机上の空論ではなく、実務経験に裏付けされた的確で実効性あるアドバイスこそ、当事務所の強みなのだと再認識することができました。ただあまりにも稚拙な回答は、社労士業界全体の信用にも関わるため、あえて本投稿で取り上げた次第です。
もちろん私も時々ケアレスミスをやらかしますので、「日本の人事部QAコーナー」の評判を貶めることのなきよう、慢心せずに日々精進して参ります。全国の人事担当者の皆様におかれましては「日本の人事部」についても、引き続きご愛顧のほど宜しくお願い申し上げます。
「日本の人事部」QAコーナーのかしこい活用法

人事QAの回答者ランキングは、それぞれの回答者の回答数と回答に対する質問者の評価(参考になった)をもとにポイント換算して順位に反映するシステムです。生成AIのコメントをコピペしただけの粗雑な回答であっても、数さえこなせば上位にランクインできるのです。
質問者は的外れな回答でも「参考になった」をクリックしてくださる律儀な方が少なくないようですが(感謝!)、そのようなシステム特性ゆえに、ランキングページではまるでカリスマ回答者のようにみえても、必ずしも実力が伴っているわけではない点にご注意ください。
日本の人事部QAの賢い活用法は、各回答者のプロフィール画面から、過去の回答履歴をチェックしてみることです。特に回答者で明確に意見が分かれている論点について、ページを丸ごと印刷して官公署に持参し、回答者の真贋を検証してみるのも一興かもしれません…。

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