
はじめに
今回は、弁理士の児嶋秀平先生が上梓された「知財で差をつけろ!中小企業・スタートアップのための商標戦略」の書評です。児嶋先生は元経産省のキャリア官僚で、退官後に弁理士資格を取得して開業され、現在は児嶋国際特許事務所®の代表を務められています。
児嶋先生と私は直接の面識はありませんが、本書の出版に際して、児嶋先生から「ぜひ本書をご一読いただきレビューしてほしい」とSNSを通じてお声がけ頂きました。分不相応を承知の上で、本書の価値を少しでも世に知らしめたいと考え、筆を執らせて頂いた次第です。
本書の特徴と魅力
さて、知的財産権には特許権や実用新案権など色々あります。そして本書は商標権にフォーカスして、その定義や商標登録の重要性、商標登録の手続、イレギュラー発生時の対応方法などについて、網羅的かつ体系的にわかりやすく解説されているのが大きな特徴です。
商標登録のエッセンスをオールインワンで集約し、関係法令を原文のまま引用しながら、難しい内容を平易な言葉に置き換え、図表や各社の実例をふんだんに交えたり、各章ごとに要点を総括しているため、事務担当者の実務手引書として活用できるのも本書の魅力でしょう。
社名の商標登録こそ最優先
商標登録といえば製品やサービスを想起するのが一般的だと思いますが、本書では社名こそ最優先で商標登録すべきと論じている点が印象的でした。世間に広く認知された社名は自社の信用の証ですが、他社が自社の社名を商標登録することで、自社名を使用できなくなります。
自社の社名すなわちブランド価値を他社に奪われるということは、実質的な会社乗っ取りのようなものです。ゆえに社名の商標登録は企業防衛の最低限です。一方、本書によれば商標登録料は10年間で32,900円也。年額たったの3,290円ですから、保険料と考えても安いものです。
北海道の観光産業への提言
かつて私は北海道観光局と北海道大学の共催による「北の観光まちづくりリーダー養成セミナー」でマーケティング講師を務めたことがあります。「地域資源を発掘して事業化し、商標登録することでサスティナブルな観光ビジネスを確立できるのだ。」などと講義していました。
しかし本書によると、道内中小企業の商標登録出願件数は、全国平均すら大きく下回っている状況です。最近はコロナリスクが沈静化し、インバウンド回帰が顕著となっていますが、道内で観光ビジネスに携わる中小事業者こそ、ぜひ本書をご一読下さることを切に願います。
専門士業における商標登録
商標登録とは一見無縁に思える我々社労士業界においても、全国社会保険労務士会連合会が「経営労務診断®」という名称を商標登録していることをご存知でしたでしょうか?「経営労務診断®」は、経営労務監査の前段階としての労務コンプライアンス診断のことをいいます。
労務コンプライアンスは経営管理と一体的に推進する必要があるため、社労士の専門サービスとしてPRする際も、経営診断という名称がふさわしいのですが、隣接士業との軋轢や紛争防止のために「経営労務診断®」を商標登録しています。士業の世界も商標登録はマストです。
おわりに
知的財産権が製品に限られず、サービスやイベントなどの無形物にも及ぶのは、今や多くの人々の認識するところです。したがってメーカーの開発部門以外の方も、ぜひ一度本書を手に取っていただき、商標権および商標登録について理解を深めておくことを推奨いたします。
特に観光ビジネスにおいては、モノ消費(土産品の爆買い)からコト消費(体験型観光ツーリズム)にシフトする傾向にあります。地域創生の中核事業たる観光ビジネスの信用と価値を守るための重要な知識が、分かりやすく体系的にまとめられた良書だと、私は確信しています。
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