
北海道カスハラ防止条例の趣旨
近年、労働力不足が深刻化する社会経済情勢において、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)によって労働者が離職を余儀なくされ、事業継続が困難になる事例が増えています。このような状況を憂慮し、北海道では2025年4月より、カスハラ防止条例が施行されました。
私たちの快適な暮らしは、生産者、製造者、販売者などのサービスの担い手によって支えられています。このことを改めて認識し、道民一人ひとりがカスハラの加害者にならないこと、そして事業者が自社の労働者をカスハラ被害から守ることを、本条例は明確に示しています。
カスハラの定義と2つのパターン
厚生労働省の公式サイト「明るい職場応援団」によると、カスハラとは「お客様は神様です」などという誤った認識に基づき、商品やサービスの売り手に対して無理難題を要求したり、従業員に対して不当な要求を繰り返すことで、職場環境が著しく害されることを指します。
カスハラは大きく2つに分類できます。1つは、過大な要求や不当な言いがかりなど、主張内容に問題があるもの。もう1つは、商品の欠陥やサービスの過誤に対するクレームなど、主張内容には正当性があるものの、暴言や暴力、嫌がらせなど、主張方法に問題があるものです。

カスハラの引き起こす問題と対策
カスハラを容認すると、職場環境が悪化し、従業員のメンタルヘルスに悪影響を及ぼします。従業員の休職や離職によって業務遂行に支障が生じるだけでなく、人材確保や育成に余計なコストがかかり、最悪の場合、その地域からの事業撤退を余儀なくされる可能性もあります。
したがって事業者はカスハラ行為に対する自社の姿勢を明確にし、カスハラが発生した際に組織的に対応できるようなルールや体制を構築する必要があります。例えば、流通小売業であれば、カスハラ対応マニュアルを整備し、予め各店舗の従業員に周知徹底しておきましょう。
札幌販売士協会でもセミナーを実施
4月19日(土)に、私が所属する札幌販売士協会の主催により、カスハラ対策セミナーが開催されました。セミナー講師は接遇アドバイザーの方で、カスハラの定義や具体的な事例を解説し、カスハラに遭った際の接遇応対方法のロールプレイングを行いました。
かつて販売課長として悪質クレーマーと対峙した経験を持つ私にとって、本セミナーは時代の変化を感じるとともに、非常に興味深い内容でした。一方で社労士の見地から、人事管理において事業者が留意すべきカスハラ対策について、次章でいくつか補足したいと思います。
人事管理上のカスハラ対策の注意点
■使用者の安全配慮義務
労働契約法では、使用者は労働者を雇用すると当然に安全配慮義務を負います。もし従業員がカスハラ被害に遭ったにもかかわらず、使用者が必要な対応を怠り、従業員が何らかの損害を被った場合は、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。
■衛生委員会での対応協議
労働安全衛生法は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に対して、衛生管理者と産業医の選任および月1回の衛生委員会の開催を義務付けています。メンバーにはカスタマーサービス部や人事部も加え、カスハラ被害に遭った労働者のケアなどを協議するとよいでしょう。
■精神疾患の労災認定基準
令和5年9月の厚生労働省通達により、カスハラによる精神疾患の労災認定基準が明示されました。本通達によると次の3要件に該当すれば、労災認定されるとしています。
- 業務以外の要因による精神疾患を有していないこと
- 発症の6ヶ月前より継続的にカスハラが行われていたこと
- 心理的負荷の度合いが強・中・弱のうち「強」に該当すること
なお、カスハラによる心理的負荷の度合いが「中」程度であっても、被害に遭った労働者が上司や会社に相談したにもかかわらず、これらが何の支援も行わなかった場合には、労働者の心理的負荷が増すとして、労災認定される可能性が高いとされています。
カスハラとクレームの見極め
私の販売職時代に比べ、カスハラに対する社会の目が厳しくなったことは歓迎すべきことです。一方で商品やサービスの不具合に対するクレームと真摯に向き合うことは、自社の成長と発展にとって不可欠であり「クレームは宝の山」という言葉はあながち嘘ではありません。
懸念すべきは安易にカスハラとして片付けてしまうことで、自社の商品やサービスの改善チャンスを、自ら放棄してしまうことです。カスハラが疑われる場合は、対応を現場の担当者任せにせず、管理職が事実確認を行い、自社ルールと照らし合わせて適切に対応しましょう。
執筆;山口光博
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