人材サービス事業者の質が悪すぎる件
先日、読売新聞オンラインが報じた記事が、人事や労務管理に携わる者として看過できない内容だったため、取り上げたいと思います。
事案の概要はこうです。精神障害のある男性が、障害者雇用ビジネスを展開するN社とアルバイト契約を結び、同社が運営する農園で野菜栽培などに従事していました。その後N社の提案により、男性はK病院(医療法人)のパート職員として採用されます。
ところが実際には病院で勤務することはなく、N社の指示のもとで引き続き農園での作業を続けさせられていました。収穫物が病院食に使われた形跡もなかったといいます。
さらに問題なのは、男性が鶏ふんと腐葉土を混ぜて堆肥を作る作業に従事させられたことです。アンモニア臭が充満するビニールハウスでの作業により頭痛や吐き気が生じ、今年1月に肺炎の疑いと診断。労働基準監督署に労災を申請し、7月に労災認定されました。
表面化しているのは「氷山の一角」だ
このニュースの論点は「病院側の労災保険が適用された」という点に集中しがちですが、私はより本質的な問題があると考えています。それは、就職先であるはずのK病院とは無関係な業務に、N社の指揮命令のもとで従事させられていたという構造そのものです。
N社とK病院との間でどのような契約が交わされていたのか、報道からは判然としません。しかし、明確な契約なく男性をN社の農園で就労させていたのであれば、K病院側は労働者派遣法(無許可派遣)および職業安定法(偽装請負)に抵触する可能性があります。
また、K病院が男性を雇用している前提で障害者雇用状況報告(毎年6月1日時点)を行っていたとすれば、虚偽申請となります。仮にこの雇用によって法定雇用率を満たし、障害者雇用納付金の納付を免れていたのであれば、遡って納付義務が生じます。
契約上の雇用主がK病院であっても、実質的な使用者がN社であるならば、N社側が労働契約法上の安全配慮義務や労働安全衛生法違反に問われる可能性も否定できません。
特に2026年7月から法定雇用率が2.5%から2.7%へ引き上げられ、未達成企業には不足1名につき月5万円の障害者雇用納付金が課されるようになりました。こうした制度変更を背景に、「駆け込み的」に不適切な障害者雇用に手を染めた事業者は、本件に限らず少なからず存在するのではないかと推察しています。
医療機関だからこそ問われる法令遵守
医療機関は患者の生命・健康に直結する事業であるため、医療法や健康保険法など一般企業以上に厳格な法規制と監督のもとに置かれています。とりわけ病院は医療法第25条に基づく立入検査(いわゆる医療監視)を毎年受けており、その調査項目には医療安全のみならず、労務管理や労働安全衛生に関するコンプライアンスも含まれます。
にもかかわらずこのような事態が起きたことについて、法令の不知によるものなのか、それとも違法性を認識しながら目先の損得を優先した結果なのか、かつて医療機関で人事課長や総務課長を経験した当方(山口)としては、大いに気になるところです。
なお社会保険労務士として補足すると、本事件は障害者雇用促進法における差別的取扱いの禁止(第34条・第35条)、合理的配慮の提供義務(第36条の2・3)、労働基準法第5条の強制労働の禁止、労働契約法第5条および労働安全衛生法に基づく安全配慮義務など、いずれの観点からもコンプライアンス違反であることは明白です。
おわりに
障害者雇用は、法定雇用率という「数字合わせ」のためだけに行うものではありません。企業が真摯に向き合うべきは、障害のある方が安全かつやりがいを持って働ける環境を整えることです。今回のような事案が繰り返されないよう、雇用元だけでなく、間に立つ雇用ビジネス事業者に対する規制強化と監督の徹底が急務といえるでしょう。
とりわけ医療福祉業や流通小売業など、地域社会に密着したサービスを展開している事業者は、自社(自院)の従業員の多くは地域の生活者(消費者・利用者)でもあるということを忘れてはなりません。自分たちさえ良ければいい…という姿勢では、いずれ地域における信用を失い、従業員のみならず顧客からも見放されてしまいます。
執筆:山口光博(RWC代表・社会保険労務士)





