年末調整が近づいて「年収の壁」が何かと世間で話題になっていますが、「年収の壁」が扶養に入れるラインであることは知っていても、具体的に何の扶養なのか正確に説明できる人はあまり多くありません。そこで今回は「年収の壁」について、社労士が徹底解説していきます。
「年収の壁」とはどのようなものか?
「年収の壁」とは、税金や社会保険において、被扶養者として認定されるための収入要件を指します。被扶養者として認定されることで、被扶養者を養っているサラリーマンの税金が軽減されたり、被扶養者本人の社会保険料が生じない仕組みになっています。
最近はYouTubeチャンネルやSNSなどの影響か、一口に「扶養」といっても、年末調整(源泉所得税)における扶養と、健康保険(社会保険)における扶養は、そもそも根本的に制度が異なるのだ…ということをきちんと理解している人が増えたようです。
年末調整における年収の壁とは?
年末調整の扶養控除を判定する
給与所得にかかる税金(源泉所得税)は、年間の総支給額に対して課税されるのではありません。サラリーマンが1年間に受け取った給与と賞与の合計額から、給料を稼ぐために要した経費見合いの額を控除して残った金額に対して課税されます。
この経費見合いの額が国税庁が毎年発行している「◯年度 年末調整のしかた」に記載されている給与所得控除です。さらにサラリーマン本人の生活費(基礎控除)、サラリーマンが養っている家族の生活費(扶養控除)なども総支給額から控除できます。
一方でサラリーマンが養っている家族自身が、相当な額の収入を稼いでいるにも関わらず、扶養控除を行って税金を軽減するのは不合理です。そこで「いくらまでの収入なら扶養控除を認める」という線引きが、いわゆる「年収の壁」と呼ばれるものです。
源泉所得税における「年収の壁」
これまで源泉所得税の「年収の壁」といえば103万円と相場が決まっていました。しかし労働力不足が顕在化する昨今の労働情勢において、「年収103万円の壁」が働き控えの要因であるとして、令和7年から段階的に扶養認定の上限が引き上げられています。
| 配偶者以外の扶養親族 | 令和6年 | 令和7年 | 令和8年 |
| 一般扶養控除・特定扶養控除 | 103万円以下 | 123万円以下 | 136万円以下 |
| 特定親族特別控除 | (制度なし) | 188万円以下 | 197万円以下 |
なおこの表は扶養認定されるための「年収の上限」です。一般扶養控除の額は扶養家族1人あたり38万円で、特に学費負担の大きい19歳以上23歳未満の扶養家族については、特定扶養控除の63万円が適用されます。
さらに令和7年から、特定扶養控除の対象者のうち、年収が136万円を超えてしまった場合でも、197万円以下であれば特定扶養控除の63万円を上限として、年収に応じて逓減的に特定親族特別控除を受けることができるようになりました。
参考:配偶者控除の「年収の壁」
| 被扶養配偶者 | 令和6年 | 令和7年 | 令和8年 |
| 配偶者控除 | 103万円以下 | 123万円以下 | 136万円以下 |
| 配偶者特別控除 | 201.6万円未満 | 201.6万円未満 | 207万円未満 |
参考までに配偶者にかかる所得控除の概要もご紹介しておきます。従来から「年収の壁」が103万円とされてきたのが、令和7年、8年と段階的に引き上げられたのは扶養控除と同じです。また配偶者控除の額も一般扶養控除と同じ38万円です。
年収136万円超の場合でも、207万円未満であれば、配偶者控除の38万円を上限として、年収に応じて逓減的に配偶者特別控除を受けることができます。このルールは特定親族特別控除と同様ですが、「年収の壁」の上限額は、扶養控除よりも10万円高くなっています。
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社会保険における年収の壁とは?
健康保険の被扶養者と国民年金第3号被保険者
社会保険制度における「年収の壁」とは、健康保険の被扶養者と国民年金の第3号被保険者資格の認定にかかる収入要件をいいます。前者は被保険者の被扶養者に認定されることで、自ら健康保険料を納付することなく、原則3割の自己負担で保険診療を受診できます。
後者は、第3号被保険者である間は、国民年金保険料を免除される制度です。保険料を免除されても、老齢基礎年金等を受給する際は、国民年金保険料の納付済み期間として取り扱われ、しっかりと年金支給額に反映される制度です。
健康保険法の被扶養者認定要件
健康保険法に定める被扶養者の認定要件は次のとおりです(全て該当すること)。
- 3親等内の親族であること
- 被保険者と同居していること(配偶者・直系尊属・子・孫・兄弟姉妹は同居要件不要)
- 被保険者に生計を維持されている者であること
<生計維持要件>- 60歳未満:130万円未満
- 60歳未満のうち19歳以上23歳未満(配偶者を除く):150万円未満
- 60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害のある者:180万円未満
- 被保険者の年収に対し
- 同居の場合:本人の年収が1/2未満であること
- 別居の場合:被保険者よりも本人の年収が低いこと
最後の「本人の年収」のうち、原則的な130万円がいわゆる社会保険における「130万円の壁」と呼ばれてきたものです。180万円の要件は例外ルールとして以前から存在しました。150万円は令和7年に新たに新設された要件です。
国民年金第3号被保険者の認定要件
国民年金第3号被保険者の認定要件は次のとおりです(全て該当すること)。
- 国民年金第2号被保険者(厚生年金保険の被保険者)の配偶者であること
- 本人が20歳以上60歳未満であること
- 国民年金第2号被保険者に生計を維持されていること
<生計維持要件>- 健康保険と同じですが、該当するのは130万円未満(60歳未満)です。
源泉所得税と社会保険の年収の壁まとめ
「年収の壁」を制度毎に比較すると
最後に源泉所得税(年末調整)と社会保険(健康保険被扶養者・国民年金第3号被保険者)それぞれの扶養認定にかかる所得要件を以下のとおり一覧にまとめました。
| 被扶養者の区分 | 年末調整 (扶養控除) | 健康保険 (被扶養者) | 国民年金 (第3号被保険者) |
| 60歳未満 | 136万円以下 (一般・特定扶養控除) | 130万円未満 | 130万円未満 |
| 上記のうち19歳以上23歳未満 | 197万円以下 (特定親族特別控除) | 150万円未満 | (上記と同じ) |
| 60歳以上 | (60歳未満と同じ) | 180万円未満 | (資格喪失) |
従来の年末調整における「103万円の壁」は136万円と197万円に増額され、また社会保険の「130万円の壁」は例外的取り扱いの180万円に加えて、新たに150万円のラインが設けられました(国民年金は「130万円の壁」のみ)。
「106万円の壁」とはなんだったのか?
鋭い読者であれば「106万円の壁」の説明が抜けているのでは?というご指摘もありそうです。この「106万円の壁」とは、パートタイマーやアルバイトが社会保険に加入しなければならない収入要件のことです。
これまで説明してきた「年収の壁」は、給与所得者の扶養家族あるいは社会保険の被保険者の扶養家族として認定されるかどうかの年収ラインでしたが、こちらは本人が社会保険に加入するかどうかの判定基準です(結果的に配偶者や親の扶養から外れますが…)。
通常、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入するのは、週の所定労働時間が正社員の3/4以上ある者が対象です。しかし次の要件に該当する場合は、週所定労働時間が3/4未満の短時間労働者であっても、社会保険に加入しなければなりません。
短時間労働者の社会保険加入要件(全て該当すること)
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 2ヶ月を超えて雇用される見込みがあること
- 学生でないこと(夜間学生を除く)
- 勤務先が特定適用事業所(社会保険の被保険者が51人以上いる事業所)であること
以前は上記のほかに「月の報酬が8.8万円以上」という要件がありました。しかし昨年の地域別最低賃金の改定により、月額報酬8.8万円を週20時間で時給換算した額を最低賃金が上回ってしまったため、令和8年9月末をもって当該要件は廃止されました。
そして月の報酬8.8万円×12ヶ月≒106万円です。つまり「年収106万円の壁」が撤廃された…と世間で騒がれている真相は、ここ数年の急激な最低賃金の上昇により、短時間労働者の社保加入要件である「月額8.8万円」が意味を成さなくなったということです。


