同一労働同一賃金ガイドラインの改正
2026年10月1日から「改正同一労働同一賃金ガイドライン」が施行されました。同一労働同一賃金ガイドラインはパートタイム有期雇用労働法や労働者派遣法などの、非正規雇用労働者に関するルールを定めた法令であり、同一労働同一賃金ガイドラインはこれらの法令を実務運用する上で必要となる具体的な指針を明示したものです。
特に非正規雇用労働者の比率が高い業種は、今一度「改正同一労働同一賃金ガイドライン」に基づき、労務コンプライアンスに抵触しないかどうか、自社(自院)の労働条件等についてチェックしておくことを推奨します。
非正規雇用労働者が高いとされる主な業種
- 医療・歯科・介護・福祉
ライセンスごとの職域・職責が明確なので、雇用身分に基づく正社員との給与諸手当や休暇等の不合理な待遇差の解消が必要になります。 - 小売・外食・サービス業
伝統的に店舗スタッフに占めるパート・アルバイト比率が高く、雇入れ時の明示事項増加や説明義務強化への運用対応の影響を強く受けます。 - 物流・運輸・倉庫
契約社員や有期雇用のドライバー・作業員が多く、諸手当(皆勤手当、無事故手当等)や賞与等の不合理な待遇差の点検が不可欠です。 - 建設・製造業
季節雇用や有期契約の現場作業員、再雇用(嘱託)のベテラン社員等の待遇整理(保有する作業免許と待遇の整合性)が必要となります。 - IT・事務・コールセンター等のオフィス系
契約社員・派遣社員(派遣元・派遣先双方)の役割定義や、教育訓練・福利厚生の適用範囲の見直しが求められます。
同一労働同一賃金ガイドライン改正の背景
働き方改革関連法において「同一労働同一賃金法理」が導入されて5年が経ちました。この間、非正規雇用で働く方々の待遇は着実に改善してきましたが、正社員との賃金格差は今なお残っており、一層の取り組みが求められてきました。最高裁判所で、正規・非正規間の待遇差をめぐる判断が相次いだことも、見直しの大きなきっかけです。
こうした流れを受け、法附則の「5年後見直し規定」に基づいて、労働政策審議会の「同一労働同一賃金部会」が計14回にわたり検討を重ねました。令和7年12月の部会報告を経て省令・告示が公布され、2026年10月1日から施行されています。
説明義務が強化された背景には、実態調査の結果もあります。待遇差の理由について説明を求めたことがある非正規雇用の方は8.0%、実際に説明を受けた方は5.4%にとどまりました。そもそも「説明を求められること自体を知らない」という方も一定数存在していることが判明しています。
従前のガイドラインからの主な変更点
今回の改正(パート・有期法施行規則と雇用管理指針等の告示改正)のポイントは、大きく2つです。具体的には「雇入れ時の情報開示」と「待遇差についての説明の充実」です。
雇入れ時の明示事項の追加(施行規則第6条第1項)
パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れる際に明示する事項は、従来「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」の4項目でしたが、これに加えて「待遇の相違の内容・理由などについて説明を求めることができる旨」の明示が義務となりました。
あわせて、勤務先に対して待遇差の説明を求める際の申し出先(部署名・担当者名)も記載しておくことが望ましいとされています。なお、これらの義務に違反した場合は10万円以下の過料の対象となりますのでご注意ください。
資料等を活用した待遇差の説明(雇用管理指針)
これまでは口頭での説明が基本でしたが、今後は次のいずれかの方法により、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との待遇差について、説明しなければなりません。
- 資料を活用しながら口頭で説明する
- 説明すべき事項をすべて記載した、分かりやすい資料を交付する
口頭で説明する場合も、活用した資料は交付することが望ましいとされています。個人情報の関係で交付が難しいときは、後日あらためて閲覧できる機会を確保することが求められます。
事業者側からの積極的な待遇差の説明(努力義務)
労働者から求めがない場合でも、契約更新のタイミングなどで、待遇差の内容・理由に関する資料を交付したり、説明を請求できることを周知したりすることが望ましいと示されました。
抑えておくべき改正ガイドラインの要点
改正ガイドラインの基本的な考えかた
- 主観的・抽象的な理由は正当化されない
「役割への期待度が異なるから」といった主観的・抽象的な理由ではなく、客観的かつ具体的な事由に基づく待遇差が必須となりました。 - 待遇差の解消は非正規の待遇改善で行う
正社員の労働条件を引き下げて待遇差を解消するのではなく、非正規雇用の方の待遇を改善する方向で対応すべきことが明示されました。 - 正社員の確保・定着では正当化されない
従来の常套句である「正社員の確保や定着」を目的とすることをもって、直ちに待遇差が正当化されるわけではないことが示されました。 - 定年後の継続雇用者も今後は対象となる
定年後の継続雇用や再雇用だからといって直ちに待遇差が容認されるわけではなく、待遇の性質や目的に照らして合理性を判断されます。 - 労働者の意向を尊重して待遇を決定する
労働者の意向を考慮せず一方的に待遇(労働条件)を決めた場合、そのこと自体が待遇差が不合理であると判断される要素になり得ます。 - 無期雇用フルタイム労働者も対象となる
いわゆるフルタイムパート(パートタイム・有期雇用労働法の対象外)も、当該ガイドラインの趣旨が考慮されるべきと明記されました。
個別の待遇についての新規追加・拡充
最高裁判決などの積み重ねを踏まえ、次の待遇について具体的な考え方が示されました。
| 待遇 | 区分 | ガイドラインの考え方 |
|---|---|---|
| 賞与・退職手当 | 記載の充実・新規追加 | 労務の対価の後払いや功労報償といった目的が当てはまるにもかかわらず、職務内容等の違いに応じた均衡のとれた支給をしない場合、不合理と判断される可能性があります。 |
| 無事故手当 | 新規追加 | 正社員と業務内容が同一であれば、同一の手当を支給する必要があります。 |
| 家族手当 | 新規追加 | 契約更新を繰り返し、継続的な勤務が見込まれる方には、正社員と同一の支給が求められます。なお、いわゆる配偶者手当は、働き方に中立的な制度への見直しが推奨されています。 |
| 住宅手当 | 新規追加 | 転居を伴う配置変更の有無に応じて支給する場合、正社員と同様の配置変更がある方には同一の支給が必要です。 |
| 病気休職・休暇 | 記載の充実 | 継続勤務が見込まれる方には、療養専念を目的とする病気休暇も含め、正社員と同一の給与保障が必要です。 |
| 夏季・冬季休暇 | 新規追加 | 正社員と同一の休暇を付与する必要があります。 |
| 褒賞 | 新規追加 | 一定期間の勤続に対して付与する場合、同じ期間勤続したパート・有期の方にも同一の褒賞を付与する必要があります。 |
| 福利厚生施設 | 記載の充実 | 食堂や更衣室などの利用料金・割引率といった利用条件に、不合理な差を設けてはなりません。 |
雇用管理指針と労使調和の環境づくり
雇用管理指針の改定では、雇用管理全般について、労使が適切に手続きを進められる環境の整備が求められています。
- 職業能力開発の機会を提供する
職業能力開発促進法はパート・有期の方にも適用されます。したがって非正規雇用労働者に対しても、訓練の機会や支援を提供してください。 - 公正な評価に基づいて賃金を決める
職務内容、成果、意欲、能力などを公正に評価し賃金に反映させるべく、雇用身分に囚われない報酬・評価制度を導入することを推奨します。 - 過半数代表者の要件を明確にする
就業規則の作成・変更時に意見を聴く過半数代表者は、管理監督者でないことに加え、投票や挙手など、事業主の意向に基づかない方法で選ぶ必要があります。 - 正社員への転換を後押しする
雇用身分の転換制度(正社員登用制度)を設けるよう努め、労働者との定期的なキャリア面談などを実施します。人事評価制度との連携が有効です。 - 自社(自院)の取り組みを公表する
正社員転換の実績や雇用身分に囚われない教育訓練の取り組み状況等を、ウェブサイトなどで定期的に公表することが望ましいとされています。
自社(自院)で取り組むべき実務的対応
改正同一労働同一賃金ガイドラインの施行に伴い、次の点について、順次ご対応いただくことをお勧めします。
- 労働条件通知書・雇用契約書のひな形を改訂する
新たに採用するパート・有期の方への労働条件通知書に、「待遇の相違の内容・理由などについて説明を求めることができる旨」と、相談・説明の申し出窓口(担当部署・氏名など)を必ず記載してください。 - 賃金規程・給与諸手当・福利厚生等を総点検する
賞与、退職手当、家族手当、住宅手当、無事故手当、病気休職、夏季・冬季休暇などについて、制度の目的をあらためて確認しましょう。支給条件が、正社員との働き方の違いに見合ったバランスのとれたものになっているかを見直します。 - 客観的で具体的な「待遇差の説明資料」を整える
説明を求められた際に、「正社員だから」「将来の役割が違うから」といった説明だけで済ませることはできません。職務内容、責任の程度、配置変更の範囲といった客観的な事実に基づき、分かりやすく説明できる資料(説明用のペーパーや職務評価表など)を、あらかじめ用意しておくことが重要です。 - 正社員の待遇を下げて待遇差を解消するのはNG!
待遇差をなくそうとして、正社員の家族手当や住宅手当などを引き下げたり廃止したりする方法は、法の趣旨に沿いません(実際にそのようなご相談が増えています)。非正規雇用の方の待遇を引き上げ、改善する方向で検討してください。 - 過半数代表者の選出および意見聴取を適正に行う
不合理な待遇差を解消すべく就業規則を改訂する際は、パート・有期の方を含めた過半数代表者の選出が、民主的で適正な手続きで行われているかをご確認ください。あわせて、代表者が業務を行いやすいような配慮もお願いします。
おわりに
今回の改正は、すべてを一度に整えなければならないものではありません。まずは労働条件通知書の改訂と、自社の制度の現状把握から着手されるのが現実的です。制度の見直しは、非正規雇用の方々の納得感やモチベーションの向上につながり、結果として職場の定着や人材の確保にも役立ちます。貴社(貴院)の状況に応じた進め方でご不安な点があれば、お気軽に当事務所へご相談ください。


